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「生き方」~人間として一番大切なこと~(稲盛和夫著)を読んで

感想文: 糸井洋介

 人は、生きている間は欲に迷い、惑う事が生き物の性である。それを何も考えずして、ほうっておくと際限なく財産や地位、名誉を欲しがり、快楽におぼれてしまい、滅びていく。しかし、その中でたった一つだけ、滅びずに残るものは、“魂”である。死を迎えるにあたって、現世(人生)で創り上げた地位・名誉・財産等すべて脱ぎ捨て、“魂”だけが新しい旅立ちとなる。生きていく事は、苦しい事が多いものである。人は、“なぜ、自分だけがこんなに苦しいのか”とすぐに考えがちである。だけれども、その苦しさを“魂”を磨く為の試練、自らの人間性を鍛える為の絶好のチャンスと捉えることが出来る人が、限られた人生を本当に自分のものとして生きていける。
 正しい人間、能力や人格を有するものになる為には、まず生きる目的、人生の意義そのものを理解しなくてはならない。心を高める、その言葉が生きる意味となり、生きる目的になる。心を高めるとは、生まれた時よりも、少しでも美しい心になって死んでいくことである。生まれた時よりは、死ぬ時の魂の方が少しは進歩した、心が磨かれた状態である。身勝手で感情的な自我が抑えられ、心に安らぎを覚え、優しい思いやりが芽生え、わずかなりとも利他の心が生まれるという状態が自分を変化させ、美しい心になっていく。また、様々な苦しみや悩みなど味わいながらも、生きる喜びや楽しみ幸福を手に入れる事でもある。そうすることにより、自分自身、十分に生きたと思えるような価値観があるというものである。心を磨く指針として、(1)誰にも負けない努力をする (2)謙虚にして驕らず (3)反省ある日々を送る (4)生きている事に感謝する (5)善行、利他行を積む (6)感性的な悩みはしない これらを『六つの精進』とし、常に自分に言い聞かせ堅実に実践していくことが必要である。自分を飾るのではなく、普段の生活の中に取り入れ、それが“当たり前”だと実行することが肝心である。
  “勤勉”とは、物事を成就させ、人生を充実させて行く為に必要不可欠な事である。“勤勉”とはすなわち、懸命に働く、真面目に一生懸命仕事に打ち込む事により、精神的な豊かさや人格的な深みを獲得出来る為のものである。勤勉とは、人間として基礎を創り、人格を磨いていく修行の役目そのものであり、苦しさや辛さを乗り越え何かを成し遂げたという達成感を人間の魂に喜びを与える事である。
 『利他の心』とは、仏教でいう「他に善かれかし」という慈悲の心、キリスト教で言えば愛である。簡単にいうと、「世のため、人の為に尽くす」ということである。利他とは、相手、つまり周囲の人たちを思いやる小さな心がけである。人とは、世の為、そして人の為に何かをしたいという“善”の気持ちを備えているものである。つまり、人間が持つ自然な心の働きだという思いを強くする。他人の為に何かをする、尽くす事は他人の利だけでなく、めぐりめぐって自分も利する事である。このことはビジネスにも置けることであり、相手にも自分にも利のあるようにするのが商いの極意であり、自利利他の精神が含まれている。

2010.6.30.


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